ロマン主義(Romanticism)は、18世紀末から19世紀半ばにかけてヨーロッパで展開した芸術・思想運動であり、啓蒙主義と新古典主義の理性・秩序・普遍性に対抗して、個人の感情、想像力、自然の崇高、そして歴史や民族の精神性を重視した芸術・思想運動です。
ロマン主義の主な特徴
- 理性よりも「感情と個性」
規則や理屈よりも、画家自身の直感、情熱、苦悩、狂気といった内面的な感情の表現が最優先されました。 - 民族伝承と国民国家意識(ナショナリズム)
啓蒙主義的な普遍主義に対抗し、自らのルーツである「民族精神」への回帰を強く打ち出しました。グリム兄弟による民話収集に代表されるような自国の神話や伝承の再発見は、19世紀の独立運動や国家統一の機運と深く結びつき、独自の歴史や風景を描く強力な原動力となりました。 - 大自然への畏怖(崇高美)
美しく穏やかな自然ではなく、嵐、険しい山々、荒れ狂う海など、人間の無力さを思い知らされるような圧倒的で恐ろしい自然の力が好んで描かれました。 - 異国情緒と神秘主義
中東や北アフリカなどの未知の世界(オリエンタリズム)や、中世の伝説、オカルト、悪夢など、日常からかけ離れた神秘的なテーマが愛されました。 - 動的な構図と劇的な色彩
静かで整然とした構図を避け、斜めの線を使った躍動感のある構図や、強い明暗法(コントラスト)、そして感情を揺さぶるような鮮やかな色彩が多用されました。
代表的な画家と名作
ロマン主義は、展開した国々の「民族意識」や歴史的背景によって作風が大きく異なるのも魅力の一つです。
- フランシスコ・デ・ゴヤ(スペイン)
ロマン主義の先駆者とも言える存在です。人間の狂気を描くと同時に、ナポレオン軍(フランス)の侵略に対するスペイン民衆の抵抗を容赦なく描いた《1808年5月3日、マドリード》は、民族的悲劇と戦争の非人間性を色濃く体現しています。 - ウジェーヌ・ドラクロワ(フランス)
フランス・ロマン主義の指導的立場にあった巨匠です。フランス7月革命を主題にした《民衆を導く自由》は、祖国の自由と権利のために立ち上がる人々の躍動感と情熱に溢れた、ロマン主義とナショナリズムを代表する記念碑的作品です。 - テオドール・ジェリコー(フランス)
実際に起きた凄惨な海難事故を巨大なキャンバスに描き出した《メデューズ号の筏(いかだ)》で、生々しい人間の極限状態を表現し、当時の美術界に衝撃を与えました。 - カスパー・ダーヴィト・フリードリヒ(ドイツ)
ドイツのロマン主義は、自国の森や大地への敬愛と深い精神性が結びついています。《雲海の上の旅人》のように、広大な自然の前に佇む孤独な人物の「後ろ姿」を通し、人間の内面や深い宗教的・精神的崇高さを表現しました。 - J.M.W. ターナー(イギリス) イギリスを代表する風景画の巨匠です。《吹雪》などの後期作品では、対象物の輪郭をはっきりと描かず、荒れ狂う光と色彩の渦で大自然の猛威を表現し、のちの印象派にも多大な影響を与えました。